「4冊の本から

 
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「数学嫌いな人のための数学」    小室直樹 著   東洋経済新報社
「お父さん学校を向いて」 中川武夫 著 チクマ秀版社
「本当の学力をつける本」 陰山英男 著 文芸春秋
「レイコ@チョート校」 岡崎玲子 著 集英社


 遅ればせながら最近 読んだ4冊の本からの感想である。この4冊はいずれも話題になっていた本なので、多くの人に読まれていることと思う。著者がそれぞれ違った立場の人たちなので、この組み合わせの妙に共感をもってこの拙文を読んでもらえると嬉しい。昨今、問題にされている教育の、それも理数教育改革への極めて有効な示唆を与えてくれる。特に“数学教育を想う”筆者にとっては。

 ご存知のように、小室氏は法学者だが、京大では数学を学び、米国での研究も深く、経済、宗教、歴史と極めて広い視野をお持ちの70才になられる方。中川氏は私立高校の50代の校長先生。陰山氏は“山口小学校の奇跡”として知られる小学校の教諭で40代なかば。岡崎氏は米国留学中、17才の高校生という具合である。各立場の主張から、おのずと感じ取られる内容は深い。
 「数学嫌いな人のための数学」は“数学とは神の論理なり”で始まる。一般に数学学習の目的として、論理的思考を育むと云われている。このことを漠然と理解するがそれを明快に解説することは易しくない。その根拠を宗教に関わる歴史のなかに、数学発展の基本となっている“形式論理学”を、説得力ある事例を挙げて説いている。論調がたいへん解り易い。いかに数学学習が大切かの理解の基盤となる。 
 「お父さん学校(こっち)を向いて」は広く両親、教育関係者の間で読まれていると聞く。中川氏は現実に校長として、その学校運営、むしろ学校“経営”といってもよい創造的なアイディアの実践を通して、両親の教育への関わりを促している。実際にお会いした印象も“切れる経営者”との感があり、人を引きつける何かをお持ちになっている。こうしたリーダーのもとで教鞭をとる先生方はきついかもしれないが、生徒たちにとってはたいへん意義のある教育方針を実践されている。
 「本当の学力をつける本」は新学習指導要領が実施された現在、たいへんタイムリーな主張を説いている。“読み・書き・計算”の大事さを見直し、子供の潜在能力をいかに引き出すかが肝要な教育の現場からの主張である。ベストセラーの域にある一冊。“百ます計算”で知られる“陰山メソッド”の10年間に及ぶ実践からの主張は強い。
「レイコ@チョート校」は、上記3冊が社会的に指導者の立場からの主張に対し、現実に米国の由緒ある私立高校の在学生が執筆した日記的学校生活の記録である。もちろん、この学校は米国でも上層部の、いってみれば選ばれた環境における教育である。しかしながら、教育とはこうあって欲しいという想いの現実的実践が素晴らしい。これに匹敵した教育がわが国ではどこで受けられるのだろうか。米国の極一部の上階層で起きている教育ではあるが、その傾向と遍歴を、筆者はある程度のレベルの幾つかの公立高校で見てきた。
 
 まずは、この4冊を読んでいただかないことには、ここで記す考えを共有してもらうわけはいかないのだが・・・・・・。

 では、何を云いたいかといえば、こういうことになる。“どうしたら数学嫌いの増加をくい止めることができるか”、“どのような授業をすれば”理数教育の改善になるのかを常日頃考えていられる先生方にはたいへん大きなヒントがあることを先ず言いたい。
 「数学嫌いな人のための数学」から学ぶのは、“これからますます大事になる国際社会に生きる一人一人として、いかに数学学習が重要なのか”が理解でき、他に、即ち生徒に説明出来ることになる。
 「お父さん学校を向いて」から学ぶのは、学校自体も努力をしているし、変わることが可能である。教師も然り。しかしながら、学校に責任をかぶせ、社会の、家庭での努力がないかぎり、それは無責任な教育批判でしかないということを深く認知できる。
 「本当の学力をつける本」を読んでみると、“そういえば、なぁーるほど”と合点できる基礎基本の大事さとその築き方、こどもの潜在能力を引き出すには、大人の遠慮は邪魔になるという単純なことが再認識できる。
 「レイコ@チョート校」にいたっては、何十年も前にこうした経験ができる立場にあったら、さぞ素晴らしいかったろうなという、自分の才気の無さを省みずの夢をみるような思いがある。
「教師 宮沢賢治のしごと」畑山 博 著(小学館)に見られるわが国のよき時代のよき教師の素晴らしさと共通する教育のパワーをかいま見る思いである。 


 こうありたいとする”数学教育の想い”として、その一つのかたちを、筆者は15年ほど前から使っている“バランスの構図”で表現してみた。3つの円の一部がそれぞれ重なるような図に、その円に次の3つを当てはめる。 
1.BRAIN to think 2. HANDS to perform 3. HEART to sense  
  (参照: 
//www.edu-negishi.com/article/OmouSugakuMiruSugaku.html
 この3つのバランスの大切さを再認識した、卓越の4冊である。

(2002年6月 根岸秀孝)
 

     



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